音楽学習学会とは
音楽学習学会は、2005年に設立されました。2014年4月25日付けで、日本学術会議協力学術研究団体に登録されました。音楽学習学会は次のような趣意をもっています。
教育研究に関する学会では、その多くは「教育学会」という名称を採用しています。「学習学会」という言葉を使った学会はあまり多くありません。この名称に、私たちは戦後教育への反省と今後の教育のあり方に対する思い、そして私たちの学会のアイデンティティの表現という意味を込め、あえて音楽学習学会という名称をつけることとしました。
戦後、学校教育を中心としながら教育実践や教育研究はめざましい発展を遂げてきました。音楽も例外ではありません。音楽をも含めて子どもたちの学力は世界のトップクラスにあります。戦後教育のまさに光の部分だと考えることができます。
しかし一方で、こうした発展は、考えてみなければならない問題をも生み出しました。戦後の教育は、教育する者と教育される者といった二項対立的な図式を無意識のうちにもつくりあげてきたと私たちは考えています。そこでは、子どもや学習者はあくまで客体であり、教育という営みはタクティクスとしてとらえられることになります。こうした中で、学びが本来もっていた、たとえば共同的な関わりからの意味の生成といった重要な点を私たちは見落とすようになってきたと言わなければなりません。これが戦後教育の大きな問題点の一つです。
学習の場に軸足をおき、学習を指導者・学習者の共同的な営みとしてとらえ直してみること、そしてまた学習者の視点から学びをとらえ返してみること、そこに生成される意味に注目してみるといった臨床的な視点に立つこと、そこにこそ、豊かな実践の風景とこれからの研究のあり方が見えてくると私たちは考えています。本学会では、これまでの音楽教育に関する研究的蓄積を大切にしさらにそれを発展させることと同時に、こうした点に切り込む研究を大切にしていきます。音楽学習学会という名称には、このような意味も込められています。
本学会の研究対象は、言うまでもなく音楽の学習です。これまで音楽の学習といえば、それは学校の音楽の授業とほぼ同義でした。学びは学校だけでという時代は終わりつつあります。私たちは、今や、一生学び続け、新たな自己を発見し続けることのできる社会、つまり生涯学習社会を生きています。音楽も同様です。学校はもちろんのこと、地域のさまざまな場で、さまざまに音楽が学ばれるようになってきました。学びを生涯にわたって位置づけることが課題になってきていると考えざるをえません。本学会では、音楽の学習を学校に閉ざすことなく、生涯にわたるものとして広くとらえていきます。このように子どもから成人を一貫するという形で音楽の学びを位置づける際、それにふさわしい研究の組織が必要となります。その中から、音楽科教育学とも成人音楽教育学ともまた違った、新しい理論が生み出されていくはずです。本学会では、音楽学習に関するこうした理論の構築と発展をその目的とします。